舞台『コインロッカー・ベイビーズ』

コインロッカーに捨てられた子供たち、その中でかろうじて生き残った二人の赤ちゃん。キクとハシ。

 頭よりも身体を先に動かすキクと、その影に隠れる大人しいハシ。
二人は、物心つく以前、暴力性を制御できない問題児だったが、ある精神科の研究者が心臓の鼓動をもとにしたリズム音によって治療を行い、それを抑えることに成功。そのおかげで彼らは社会に適応できるようになる。

しかし、ハシはかつて聞いたその音のことを思い出し、それが自分の母親と結びついていると考え、母親を探しに東京へと旅立って行く。その後、東京で様々な体験をした後、歌手としてデビュー。その独特の歌唱法によりカリスマ的な人気を獲得してゆく。

 一方、陸上の棒高跳びで活躍していたキクは、家出したハシを追って東京へ母親とともに出発。母親の死後、彼はひとりぼっちになるが、モデルとして活躍する不思議な少女アネモネと知り合う。
そして二人は世界を破壊するため、謎の物質「ダチュラ」を探す約束をするのだが・・・・・・。

(公式サイトより)

 

 

6月11日、18時公演のコインロッカー・ベイビーズを観劇してきました。ちょっとネタバレ含んでしまうので読んでくれる人気をつけてください。

とにかくすごかった。語彙力が足りなすぎてうまく感想なんて言える気がしないし、正直よく覚えていないけど、舞台は生ものだから、見た直後のいましか言えないことがありそうなので書くことにします。

 

原作は未読、先に見た人の感想も読まず予備知識はゼロ。直前に公式サイトであらすじを読みはしたものの、初めて見るのにこのわりと難しそうな内容のものを音楽劇で理解出来るのか不安でした。でもこれはなんというか、「舞台」として見れたらいいものだったとおもう。よくわからないままのことも多いけど、それでよかったとおもう。

 

ハシはずっとずっとキクを必要としていた。そしてキクもずっとずっと、もしかしたらハシがキクを思うよりずっとハシのことを必要としていたのかもしれない。1幕の、鉄筋壁の向こうの街でハシを見つけたときハシの変わってしまった姿にキクはどうおもったのかな。「口紅を塗らないと仕事できないのか?」と聞いたキクは、「ぼくはホモなんだ」と答えたハシは本当はどんな答えを聞きたくて、どんなことを言いたかったのか。幼い頃から兄弟として一緒に育ってきたハシが変わっていくことは、キクにとってすごく怖いことだったんだろうなとおもう。それでも探し続けて、狂っていくハシを救おうとし続けたのは、それだけハシのことを大切に思っていたと同時に必要だったんだろうなって。

アネモネが可愛かった。とてもかわいらしい女の子で、いつも仏頂面で難しい顔をしていたキクを少しだけ笑顔にしてくれた。本当の母親を殺し、ハシの狂った姿を目の当たりにしたキクの心を救ってくれたのはアネモネだったんだろうな。ふたりのベッドシーンがほんとうに綺麗だった。

2幕、ハシがどんどん狂っていくのが怖かった。初めて好きな人が演じたものを怖いと感じた。橋本くんがカーテンコールで笑顔を見せてくれるまで、ずっと怖かったし橋本良亮という存在を思い出せなくなっていた。

舞台と客席というある程度距離があるところからもわかるくらいに、焦点が定まらずフラフラしていて、あぁこれはもうだめだな、と思ってしまうくらいに。舌を噛み切るところも、外れた手首を「ほらほらほらほら」って見せるところも、本当に怖かった。舞台照明が黄色になると、ハシがくるなって身体が固まった。狂気に満ち溢れたハシの姿は単純に怖いだけじゃなくて、どこか「助けて」というメッセージを孕んでいて見ているのがつらかった。

「ぼくは役に立ててる?なんでみんなぼくのところから去っていくの?ぼくはみんなの役に立ちたいだけなのに」というハシのセリフに涙が溢れた。ハシは母親に、世界に捨てられた子どもとして可哀想というレッテルの元生きてきたけど、きっと誰もよりもずっと人が世界が好きだったんだろうとおもう。だからハシはハシを必要としてくれた人を愛した、それが男でも女でも。「ハシ歌って」って言われて真ん中で踊りながら歌うハシは幸福に満ちた顔で、綺麗な踊りと歌を見せてくれた。

「人を殺さなくても生きていける。生きる。」というハシのセリフで幕を閉じたこの舞台は、わたしにすごいものを見せてくれたとおもう。最終的にキクとハシはどうなったのかはわからない。けど迎えにきてくれたキクとアネモネにハシは笑顔で会えたんじゃないかなとおもうし、そうだったらいいとおもう。

 

わたしが舞台を好きなのは、足音が聞こえるところ。それから舞台装置が動いて暗転した一瞬でまるで別世界を作り出せるところ。コインロッカー・ベイビーズは、舞台装置がとてもよかったとおもう。色のない冷たい虚無的な世界観を作り出していて、照明でよく感情が見えた。同じ役者さんがいろんな役を演じていてそれが全く違うものに見えるの、本当に何度見てもびっくりしてしまう。今回でいうと真田くんが演じる精神異常者の二役が本当にすごかった。嫌悪を抱かせるあの演じ方はすごいものだった。

音楽劇だったからストーリーの軸は歌に乗せて進んでいくんだけど、みんな歌がすごくて。ハシの歌い方を変えたかったと舌を切ってからのシーンは本当に声が変わる。それとキクの歌は情熱的でほんとうにすごかったなっておもう。

 

世界に捨てられたキクとハシが、今度は世界に救われていればいいなとおもう。綺麗なことばかりじゃないこの世界で、破壊を選ぶことなくどうにか生きてくれって願った。

カーテンコールで橋本くんと河合くんの笑顔を見たときなんか少しおかえりって思ってしまったくらい、ふたりが別人に見えた舞台だった。スカッとするたのしかったー、みたいな舞台ではなくて、もやもやと心に残るものが多いけど見てよかったなあとすごくおもった。綺麗な舞台だった。このまま事故怪我なく千秋楽まで駆け抜けてくれ!

 

 

これがおれたちのコインロッカー・ベイビーズだ!!!!!!!!